買取業者に「今日決めて」と
急かされたら
実家の片付けの途中で頼んだ査定。出てきた担当者は感じがよく、金額もまずまず。ただ、最後にこう言われた。「この価格は今日お返事をいただける場合のものです」。ここで決めてよいものか。買取をしない仲介会社の立場から、急かされたときに知っておいていただきたいことを順に整理します。
- クーリングオフ(宅地建物取引業法37条の2)は、業者から「買う人」を守る制度です。業者に「売る」場面には適用されません。
- 契約前なら、断るのは自由です。迷っているうちは書面に署名せず、「売ります」と確約する返事も控えてください。契約は法律上は口頭でも成立し得るからです(民法522条)。守るべき線はこの2つです。
- 提示された金額は、国の実成約データ(おうち健診)と並べてから判断できます。住所を入れるだけで、連絡先は要りません。
- 買取が向いている場合も確かにあります。急ぐ理由が「ご自身」にあるのか「相手」にあるのかで分けて考えてください。
1. なぜ急かされるのか
買取業者の事業は、物件を仕入れ、手を入れて転売し、その差額で利益を出すことです。つまり、あなたの実家は先方にとって「仕入れ」です。仕入れである以上、他社と比較される前に決めてもらうのがいちばん確実で、だから「今日なら」「今週中なら」という言い方になります。
これは必ずしも悪意ではありません。事業の構造がそうさせている、というのが実際のところです。ただし一つだけ、はっきりさせておく価値があります。急いでいるのは先方であって、あなたではないということです。あなたの側に期限があるかどうかは、あなたの事情だけで決まります。
2. 売る側にクーリングオフはない
「とりあえず契約して、落ち着いてから考えればいい」。これがいちばん危ない考え方です。
クーリングオフという言葉はよく知られていますが、不動産の取引でこの制度(宅地建物取引業法37条の2)が使えるのは、宅建業者が売主となる物件を、一般の方が「買う」場合の一定の場面に限られます。一般の方が業者に「売る」場面(まさに買取がそれです)には、適用されません。
では、売買契約を結んだ後に「やはりやめたい」となったらどうなるか。民法557条の原則では、手付が交付されている場合、売主から解除するには受け取った手付の倍額を返す必要があります(相手方が契約の履行に着手した後は、それもできなくなります)。手付による解除ができる場合は、原則として別に違約金を払う必要はありません(民法557条2項)。相手方が履行に着手した後は手付による解除ができないため、それでもやめるなら契約書の違約金の定めに従うことになります。
要するに、署名する前と後で、立場がまったく変わるということです。契約前なら断るのは完全に自由で、理由の説明も要りません。この線を越えるかどうかだけは、その場の空気ではなく、ご自身の時間で決めてください。
3. 「今日だけの価格」の考え方
「今日決めていただければこの金額です」と言われたら、確かめることは一つです。なぜ今日までなのか、明日になると何が変わるのか。
納得できる説明が返ってくることもあります。たとえば先方が同じエリアで複数の仕入れを並行していて、資金枠に限りがある、というのは事業として理解できる話です。ただ、その場合でも、説明を受けたうえで「では書面でください」と言えばよいだけです。本当に理由のある条件なら、書面にできないはずがありません。
一方で、その物件の適正な価格そのものは、期限とは無関係に存在します。国土交通省が公表している実際の成約データで、同じ町でどんな価格の取引があったかは誰でも確かめられます。期限は先方の都合、価格の妥当性はデータの問題。この2つを分けて考えると、急かされても足元が揺れません。
提示された金額が相場とどれくらい離れているか、住所を入れるだけで確かめられます。連絡先の入力欄はないので、営業の電話はかかりません。
おうち健診で相場と並べてみる4. その場でできる3つの確認
| 確認 | やること | 見ているもの |
|---|---|---|
| ① 相場と並べる | 提示額を、国の実成約データによる参考相場と並べる(おうち健診で住所を入れるだけ) | 提示額の位置。市場の水準から大きく離れていないか |
| ② 書面を持ち帰る | 金額・条件・期限を書面にしてもらい、その場では署名せずに持ち帰る | 持ち帰りを渋るかどうか。渋る相手とは契約しないほうが安全です |
| ③ 相手を確かめる | 会社名・宅地建物取引業の免許番号・取引態様(自ら買主か)を控える | 免許番号は行政庁の名簿で確認できます。名乗りが曖昧な相手は論外です |
この3つは、その場で角を立てずにできます。「家族と相談してからにします」の一言で十分で、それを受け入れない相手なら、価格がいくらであっても取引の相手として不適格です。
5. 買取が向いているのは、こういう場合です
当社は買取をしませんが、買取という仕組みそのものを否定はしません。向いている場面が実際にあるからです。
- 期限がご自身の側にある:相続税の納付、住み替え先の決済など、現金化の期日が決まっている場合。
- 現況のまま引き渡したい:残置物が多い、傷みが激しいなど、手を入れずに手放したい場合。買取は現況引き渡しが基本です。
- 販売活動をせずに済ませたい:近隣に知られずに短期間で手放したい場合。市場で買い手を探す仲介は、どうしても売り出しの期間が要ります。
- 契約後の責任を軽くしたい:業者買取では、契約不適合責任(引き渡した物件の不具合についての売主の責任)を免除する条件で契約できることが一般的です。
逆に言えば、この4つのどれにも当てはまらないなら、急いで買取に出す理由は薄いということです。急ぐ理由がご自身にあるなら、買取は合理的です。相手にしかないなら、いったん止まってください。
6. 行き過ぎた勧誘は法律で禁じられています
宅地建物取引業法47条の2は、契約の勧誘にあたって、利益が出ることが確実だと誤解させるような断定的な判断(将来の値上がりや、周辺の環境・交通の利便についての断定を含みます)を提供すること、威迫する(おどかす・すごむ)ことを禁じています。さらに国土交通省令では、正当な理由なく契約するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒むこと、迷惑を覚えさせるような時間帯の電話や訪問、長時間の勧誘、契約しない旨の意思表示をした相手への勧誘の継続などが、具体的に禁止行為として定められています。「今日中に決めてください」と考える時間を与えない勧誘は、この禁止行為に当たり得ます。
つまり、「もう結構です」と伝えた後も続く電話は、マナーの問題ではなく法令違反の問題です。困ったときは、日時・会社名・内容を控えたうえで、その業者に免許を出している行政庁(東京都知事免許なら東京都)の不動産相談窓口に相談できます。
そこまでの話でなくても、「急かされて疲れてしまった」という段階でご相談ください。当社は買取と競合しない媒介(仲介)の会社なので、買取の提示を受けている物件について、市場相場の資料を出して並べる、という関わり方ができます。売らない・買取に出すという結論になっても大丈夫です。
動画でも説明しています
ここまでの内容を、実家の片付けの日に査定を頼んだ一日として、通しで再現した動画です。記事に書いていない実務の話(「今日まで」という言葉がどこから出てくるのか、最初の提示額は目いっぱいなのか)も入れています。10分半あります。
売主側の仲介 株式会社ユーエスハウジング
よくあるご質問
Q. 口頭で「売ります」と言ってしまいました。もう断れませんか?
A. 民法の原則では契約は口頭でも成立し得ますが、不動産の売買では、金額や引き渡しの条件を書面で確かめ合い、契約書を取り交わして成立させるのが確立した実務です。署名押印をしていない段階であれば、お断りできるのが通常です。「口で言ったからもう断れない」と迫られたら、それ自体が距離を置いたほうがよいサインです。
Q. 買取と仲介、結局どちらが高く売れるのですか?
A. 買取の価格は、業者がその後の転売で利益を出すことを前提に、リフォーム費用や保有中のリスクを差し引いて決まる構造です。そのため市場で買い手を探す仲介より低くなるのが通常ですが、差の大きさは物件と状況によります。手数料や引き渡し条件も含めた「手取り額」と「期限」を並べて比べてください。当社は買取をしない媒介(仲介)の会社なので、比べるための市場相場の資料を出す側です。
Q. 断ったのに電話が続きます。どうすればよいですか?
A. 「契約するつもりはないので、今後の連絡は不要です」とはっきり伝えてください。宅地建物取引業法の省令は、契約を締結しない旨の意思表示をした相手への勧誘の継続を禁じています。それでも続く場合は、日時・会社名・内容をメモに残し、免許を出している行政庁(東京都知事免許なら東京都)の不動産相談窓口に相談できます。
Q. 事情があって、本当に急いで現金化しなければなりません。
A. 納税や決済の期日など、急ぐ理由がご自身の側にあるなら、買取は合理的な選択肢です。その場合も、1社の言い値で決めず複数社の提示を並べ、国の実成約データによる市場相場を物差しに置いてから決めることをおすすめします。期限から逆算した売り方のご相談は当社でも承ります。
出典・参考
- 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第37条の2・第47条の2|e-Gov法令検索
- 宅地建物取引業法施行規則(昭和32年建設省令第12号)第16条の11(勧誘に関する禁止行為)|e-Gov法令検索
- 民法(明治29年法律第89号)第522条(契約の成立と方式)・第557条(手付)|e-Gov法令検索
- 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(宅地建物取引業法 法令改正・解釈について)
宅地建物取引士が執筆し、株式会社ユーエスハウジングが監修しています。祖父が西品川で開いた質屋「越後屋」から三代、この街で商売を続けてきました。品川区西品川の事務所を中心に、相続・空き家のご売却を媒介(仲介)でお手伝いしています。当社は買い取る会社ではなく、売る側に立つ仲介の会社です。だからこの記事も、買取と利害なく書けています。
おうち健診は住所を入れるだけで、国の実成約データによる参考相場と所見が出ます。入力するのは住所だけ=こちらの連絡先を渡さずに使えます。提示された金額を持って、そのままご相談いただけます。
この件を相談する(無料) おうち健診(連絡先不要)※本記事は2026年8月2日時点の一般的な情報のご提供を目的としたものです。個別の契約の効力や解除の可否は、契約書の内容と個別の事情によって異なります。具体的な判断は、契約書面をお手元に、弁護士等の専門家または行政の相談窓口にご確認ください。