GUIDE|売却の基礎知識

残り6年の借地の家、
査定が崩れた理由

「更新料は、別にいただきます」。地主さんのこの一言で、残り6年の借地の家に業者が出していた値段は、そのままでは通らなくなりました。きついことは何ひとつ言われていません。それでも査定は崩れました。ただで付いてくると思っていた20年に、値札が付いたからです。何が起きたのかを、条文に当てて整理します。

2026年9月1日時点の情報です。借地借家法の条文は e-Gov 法令検索、旧借地法は出典欄のデータベースで確認できます。

結論:「承諾料を払えば、期間はまた20年に戻る」は業界の前提であって、地主さんの義務ではありません。
  • 建て替えたとき期間が延びる決まりは、古い法律にも新しい法律にもあります(借地法7条・借地借家法7条)。ただしどちらも、地主さんが「それは認めない」と言えば、原則としてそこで止まります(新法には、更新後の建て替えにかぎって裁判所が代わりに許可を出す道があります=18条。この記事のような旧法の借地には使えません)。
  • 売買では期間は動きません。残り年数のまま、次の方に引き継がれます。
  • 地主さんが応じてくださる場合、更新料を先に納めて更新を済ませ、残り6年+20年=26年とする道があります(更新後の20年そのものは法定=借地法5条1項。それを残りに足して26年にするのは、地主さんとの合意で決まる期間)。
  • 売る前に地主さんへ聞くことは4つ(次に売るときの分も、この中で聞けます)。値段の話は、そのあとです。

1. 残り6年の家に、業者が値段を出した

築40年を超えた借地の家でした。土地を借りた時期は平成4年8月より前、いわゆる旧法です。残りの期間は6年。売主さんは住み替えを考えていて、早く現金にしたい事情がありました。

買い手は、家を壊して新築を建てる業者さんです。業者さんは値段を出しました。その値段は、こういう前提で組まれていました。「売るときの承諾料と、建て替えの承諾料。この2つを地主さんに納めれば、期間はまた新しく20年になる」。

実際、実務ではそうしてくださる地主さんが多いのです。私が見てきた範囲では、ほとんど前提のように扱われています。ところが、この家の地主さんの答えは違いました。何と言われたかは、このあと5章で書きます。先に、その前提がどこから来ているのかを見ておきます。

2. まず、旧法と新法の分かれ目

借地の法律は、平成4年8月1日に新しくなりました。それより前から借りている土地が旧法、あとから借りた土地が新法です。この家は旧法でした。

大事なのは、最初に借りた日で決まるということです。あとから何度更新していても、旧法の契約は旧法のままです。法律にも「この法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお従前の例による」と書かれています(借地借家法附則6条)。建て替えによる期間の延長も、同じく従前の例によります(附則7条)。

ちなみに、最初に契約を結ぶときの年数は、新法なら原則30年です(契約でこれより長く定めたときは、その期間になります=借地借家法3条)。旧法では、木造など堅固でない建物なら30年、石造やれんが造などの堅固な建物なら60年です(契約で堅固な建物は30年以上、それ以外は20年以上の期間を定めたときは、その期間になります=借地法2条)。どちらにしても、この30年は「最初の一回」の話で、売るときに戻ってくる数字ではありません。

契約書の日付が新しくても、それだけでは新法とは限りません。どちらの契約かは契約書の中に書かれていることがあり、見当たらないときは、最初にいつ借りたかが手がかりになります。

3. 業者が置いた前提

借地の家は、建物は自分のもの、土地は地主さんから借りているものです。だから決まりごとが一つあります。建物を人に売るとき、建て替えるときは、土地の持ち主に承諾をもらう。契約書に、そう書いてあるのが普通です。

承諾には、お金が付きます。売るときの譲渡の承諾料、建て替えるときの建て替えの承諾料。1章の前提は、この2つを納めた先に期間が伸びる、という並びでできています。

ここまでは、間違いではありません。ただ、それは地主さんの義務ではない。ここが、この話の分かれ目です。

4. 20年は法律にある。ただし地主さんが止められる

「建て替えたら20年」という数字そのものは、法律にあります。古い決まりにも、新しい決まりにも。

  • 旧法(借地法7条)=借地権が消滅する前に建物が滅失し、残存期間を超えて存続する建物を建てることについて、土地所有者が遅滞なく異議を述べなかったときは、建物が滅失した日から木造なら20年存続する。
  • 新法(借地借家法7条1項)=残存期間を超えて存続する建物を建てることについて地主の承諾がある場合に限り、承諾があった日か建物が築造された日の早い方から20年存続する。

並べると分かるとおり、どちらにも「ただし」が付いています。旧法は地主さんが異議を述べれば止まる。新法は承諾がなければ効かない。法律にあるのは20年という数字であって、地主さんに応じさせる力ではありません。

承諾そのものについては、折り合わないとき裁判所に代わりに許可してもらう道があります(増改築を制限する契約のとき=17条、売るとき=19条)。ただしこれは建て替えや売却そのものの許可で、期間を延ばすための手続ではありません(裁判所が釣り合いを取るために他の借地条件を変えることはできます=17条3項)。新法には、更新後の建て替えについて裁判所が承諾に代わる許可を出し、その結果として期間が延びる決まりもあります(18条)。ただし、この決まりは旧法の借地には適用されません(附則11条)。旧法の借地では、地主さんの異議を裁判で覆して期間を延ばす手続は用意されておらず、建て替えを理由に期間を延ばせるかどうかは、地主さんとの話し合いで決まります。

建て替えの通知をして地主さんが2か月以内に異議を述べなければ承諾があったものとみなす、という決まりも新法にはあります(7条2項)。ただし契約を更新したあとの通知には使えません(同項ただし書)。更新後は、当てにしない方が安全です。なお、この記事の家のような旧法の借地には、この通知の仕組み自体がありません(附則7条)。新法で30年という数字が出てくるのは、契約を結び直したときです。法律が建て替えのときに定める延長は原則20年です(残っている期間のほうが長いとき、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間になります=7条1項ただし書)。

5. 地主さんの答えは、断りではなかった

地主さんに確認したところ、答えは3つでした。

  • 建て替えの承諾はします。ただし、期間は残りの6年のままです。
  • 更新料は、別にいただきます。6年後の更新のときに。
  • いま更新料を納めていただけるなら、残りの6年に20年を足して、26年にしましょう。

断ってはいないのです。むしろ道を示してくださっています。3つめは、更新して20年を取り直すという形です。旧法では、更新すると期間は更新の時から木造で20年です(借地法5条1項)。それを残りの6年に足して26年とするのは、法律が自動でくれる年数ではありません。満了の時から20年を今のうちに約束する形(5条1項)か、今から26年と定める形(同条2項=法定より長い期間を定めたときはその定めによる)かのどちらかで、いずれも地主さんとの合意で決まる期間です。残り年数が延びると、一般に買う方は住宅ローンが組みやすくなります。売れる値段も、そこで変わります。

それでも、出ていた値段は組み直しになりました。ただで付いてくると思っていた20年に、更新料という値札が付いたからです。前提がひとつ崩れると、値段は組み直しになります。

6. 更新料を誰が払っても、手元に残る額は減る

こうした場合、更新料は買い手が持つ形で話がまとまることがあります。ただ、そのぶんは買い取りの金額に織り込まれます。

つまり、更新料を誰が払っても、売主さんの手元に残るお金は減ります。名目が売主の負担であっても業者の負担であっても、出どころは同じだからです(いくら値段に織り込まれるかは、そのときの交渉によります)。

もし先に地主さんへ聞けていたら、その分は値段の話し合いの材料にできたはずです。順番が逆になると、後から差し引かれる側に回ります。

7. 承諾料は「更地価格の何%」で決まらない

「承諾料っていくらが普通なんですか」とよく聞かれます。その前に一つだけ。土地を借りて家を建てて住み続けられる、この立場そのものに値段が付きます。借地権です。土地の値段まるごとではなく、そのうちの何割か、という形で見ます。

何割になるかは、国税庁の路線価図に A から G の記号で書いてあります。A が90%、B が80%、C が70%、D が60%、E が50%、F が40%、G が30%。たとえば「215D」なら、1平方メートルあたり21万5千円で、借地権の割合が60%という意味です。東京では B から D が多い、というのが実務での実感です。

目安は、あります。契約書には「承諾料は更地価格の何%」と書かれていることがあり、実務では譲渡の承諾料を借地権価格の1割程度、建て替えの承諾料を更地価格の数%程度と見ることがよくあります。たとえば土地だけなら5,000万円という場所で、借地権割合が7割なら、借地権の値段は3,500万円。その1割は350万円です。更地価格の1割なら500万円ですから、どちらの1割かで150万円変わります。

ただ、この数字をそのまま覚えて帰らないでください。%の数字に目が行きますが、見るべきはそこではありません。その更地価格を、どうやって出すのか。そこが書いていなければ、%が決まっていても金額は決まっていません。

契約書によっては、路線価を0.8で割り戻した額を更地価格とする、と書いてあります。路線価が1平方メートル30万円なら、37万5千円です。あとは面積と土地の形の補正をどう見るか。そこまで書いてあれば話が早いのですが、書いていない契約書も多いのです。

8. もう一度かかるお金=再譲渡の承諾料

買い手が業者さんの場合、もう一つあります。業者さんは家を建てて、それを次の方に売ります。このとき、もう一度譲渡が起きます。再譲渡の承諾料です。

それは業者が払うお金でしょう、と思われたかもしれません。でも業者さんは、その承諾料もかかったお金として値段の計算に入れてきます。だから、売る前に地主さんに聞くのです。

9. 売る前に、地主さんへ聞く4つ

借地の家を売ると決めたら、地主さんに確認することが4つあります。

  • 売るときに、いくら納めるのか。
  • 建て替えるときに、いくらか。
  • そのあと、期間はまた長くなるのか。
  • その金額は、どう決まるのか。

ぜんぶ、お金と年数の話です。この4つが揃っていれば、業者さんの値段が「何を前提にしているか」を、こちらから確かめられます。

10. 値段の前に、地主さんへ

借地の家の売却で、一番お伝えしたいのは順番です。値段の相談の前に、地主さんへの確認。この順番なら、値段を出したあとに前提から崩れることを減らせます。

毎年、土地の持ち主に地代を納めている家なら、たいていこの記事の話です(更新のない定期借地の契約だけは別で、その場合は期間が延びる話そのものがありません)。契約書が旧法か新法か、定期借地ではないか、残りは何年かを見てから、地主さんへはこう聞いてみてください。「家を手放すことを考えています。売るときと建て替えるときに、いくらお納めすればよいでしょうか。そのあと、期間はまた長くしていただけますか」。これだけです。値段の交渉ではないので、切り出しやすいはずです。

もし売却を私たちにお任せいただけるのであれば、この地主さんへの確認は、私たちが代わりに行います。契約書の読み方が分からなければ、ご相談からお声がけください。ご自身の家の相場圏を知りたいときは、おうち健診をお使いください。住所を入れるだけで、国の実成約データをもとにした参考の価格帯が出ます。ただし出るのは所有権としての目安です。借地の家は、このうち土地の部分に借地権割合をあてて考えます(建物の価値まで割合を掛けると、下げすぎになります)。なお借地権割合はもともと相続税の評価に使う数字で、実際に売れる値段は残りの期間・地代・承諾料の条件で上下します。連絡先の入力欄はなく、営業のご連絡もいたしません。

動画でも説明しています

売主側の仲介 株式会社ユーエスハウジング

よくあるご質問

借地の家を売ると、期間は新しく20年に戻りますか?

自動では戻りません。売買は持ち主が変わるだけで、期間は残り年数のまま次の方に引き継がれます。建て替えたときに期間が延びる決まりは、古い法律(借地法7条)にも新しい法律(借地借家法7条)にもありますが、どちらも地主さんが異議を述べる・承諾しないことで止められます。実務では承諾料とあわせて期間を整えてもらえることが多いものの、それは地主さんの義務ではなく合意の結果です。

旧法の借地に、新しい法律の20年は当てはまりますか?

そのままは当てはまりません。平成4年8月1日より前から借りている土地は、建て替えによる期間の延長について「なお従前の例による」とされ(借地借家法附則7条)、旧借地法が引き続き適用されます。旧法では、地主さんが遅滞なく異議を述べなかったときに、建物が滅失した日から木造なら20年存続します(借地法7条)。更新した場合も木造なら20年です(借地法5条)。

更新料を先に払って、期間を延ばしてから売ることはできますか?

地主さんが応じてくださればできます。旧法では更新後の期間は更新の時から木造で20年です(借地法5条1項)。残り6年の借地で、更新料を先に納めて、残りの6年に20年を足した26年とするのは、法律が自動でくれる年数ではありません。満了の時から20年を今のうちに約束する形(5条1項)か、今から26年と定める形(同条2項=長い期間を定めたときはその定めによる)のどちらかで、いずれも地主さんとの合意で決まります。一般に買う方は住宅ローンが組みやすくなり、売れる値段も変わります。ただし応じるかどうかは地主さん次第で、いくらかかるかは契約によります。

承諾料は、いくらが普通ですか?

契約書には「更地価格の何%」と書かれていることがあり、実務では譲渡の承諾料を借地権価格の1割程度、建て替えの承諾料を更地価格の数%程度と見ることがよくあります。ただし本当に大事なのは%ではなく、その更地価格をどう出すかです。契約書によっては路線価を0.8で割り戻した額を更地価格とする、と書かれています。%が決まっていても、更地価格の出し方が決まっていなければ金額は決まりません。ご相談いただければ、契約書のどこを見ればよいかからお答えします。

出典・参考

  • 借地借家法(平成3年法律第90号)第3条・第7条・第17条・第18条・第19条、附則第6条・第7条・第11条
    https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090
  • 借地法(大正10年法律第49号・平成4年8月1日に廃止。旧法の借地については、借地借家法附則6条・7条により「なお従前の例による」)第2条・第5条・第7条
    名古屋大学 法情報研究センター 法令データベース https://jahis.law.nagoya-u.ac.jp/lawdb/l/210a0049
  • 国税庁「路線価図の説明」(借地権割合 A〜G の記号)
    https://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_prcf.htm
  • 施行日=平成4年8月1日(借地借家法附則第1条および施行期日を定める政令)

この記事は一般的な説明です。事例は実際の取引をもとに、場所や人物が分からないようにしています。更新料そのものは法律の定めではなく、契約や慣行によるものです。承諾料や更新料の金額、期間を整えてもらえるかどうかは、契約の内容と地主さんのお考えによって変わります。個別の判断は契約書の現物を確認してからになりますので、実際の売却にあたっては専門家にご相談ください。

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