GUIDE|売却の基礎知識

私道の承諾料399万円、
判決は0円でした

築50年を超えた家を建て替えようとした人が、私道の持ち主から管理を任されたという不動産会社を通じて、掘削工事の承諾料として399万6000円を求められました。裁判所の答えは、承諾料があるか無いかに関わらず、私道の持ち主には掘削工事を承諾する義務がある、というものでした。では、実家の前が私道でも安心なのか。売るときには、別の問題が残ります。判決の要旨をもとに整理します。

2026年9月10日時点の情報です。判決の内容は、不動産適正取引推進機構(RETIO)の機関誌に載った要旨の範囲で書いています(判決の全文は参照していません)。条文は e-Gov 法令検索で確認できます。

結論:この裁判では、私道の持ち主に「承諾料の有無に関わらず承諾する義務がある」とされ、承諾料は認められませんでした。裁判所が承諾料を0円と値付けしたのではなく、承諾料を条件にはできない、という判断です。この工事についての判断で、私道の承諾料が一律に不要になる話ではありません。そして、工事が認められる権利があることと、すぐに売れることは別の話です。
  • 裁判所が重く見たのは2つ=水道とガスを使うために必要な工事か/相手の負担は最小に抑えられているか。
  • 根拠は明治の民法にある通水の条文(220条・221条1項)と下水道法11条の類推適用。2023年4月からは民法213条の2に、設備を置く権利が正面から書かれています。
  • それでも売買では、公道に出るまでの私道について、通行と掘削の承諾書を求められることが多い。承諾書が無い土地は、買い手がそのままでは買いにくい。
  • 売る前に確かめるのは3つ=配管がいつのものか/私道の持ち主と窓口は誰か/手元に承諾書があるか。

1. 始まりは、一枚の紙

ある住宅地の私道に面した家々の郵便受けに、書面が入れられました。差出人は、私道の持ち主から管理を任されたという不動産会社です。この私道は個人の所有地である。持ち主の許可なく使うこと、通ることを禁止する。無断で掘れば損害賠償の対象になる。そう書いてありました。

その私道に面した一軒に、築50年を超えた建物がありました。建ったのは昭和40年代。持ち主は、この建物を壊して、住まいと貸す部屋を建て直すことにしました。

建築を計画し、工事の相談を進めたところで、問題が出てきます。配管です。水道管とガス管は、建物が建った昭和40年代に埋められたものでした。ガス管は鉄でできた古いタイプで、裁判所も「一般的に使用期間の目安が20年程度といわれている白ガス管」と認めています。水道の引き込み管は太さ20ミリで、この件では40ミリへの更新が必要だと認められました。

配管を新しく引き直さないと、建て替えは進みません。そして引き直すには、私道を掘る。その私道の持ち主は、別の人です。

実家を売る場合も同じです。買った人が建て替えるなら、配管の状態によっては、同じように私道を掘る工事が要ります。この話は、建て替える人だけの話ではありません。

2. 承諾料、399万6000円

ここからは、判決の要旨と、委員会の報告に載った時系列(RETIO No.126 p.94)に記録された事実をもとに書きます。建て替える人は、紙に書いてあった不動産会社に連絡し、配管工事のために私道の掘削工事を承諾してほしいと、持ち主への取り次ぎを頼みました。返ってきたのは、承諾料として399万6000円を求める回答でした。

建て替える人は、持ち主と直接話したいと手紙を出しました。返事はありませんでした。代わりに管理を任された会社から、持ち主に直接連絡しないこと、提示した承諾料を払わないなら掘削は認めないこと、が伝えられます。

この時点で、建て替える人は弁護士に相談しました。弁護士は管理を任された会社に、持ち主の代理人であることの証明を求めました。証明は出てきませんでした。話し合いは止まり、その年の9月に提訴となります。求めたのは2つ。掘削工事を承諾せよ、そして工事を妨害するな、です。

3. ハンコ代は、いくらぐらいなのか

ここで、こう思いませんか。私道のハンコ代というのは聞いたことがあるけれど、そんなにするものなのか、と。

この判決を検討した業界の委員会では、承諾料として10万〜30万円ほどを払う例がある、という参加者が多かったと記録されています。継続的に使用料を払う例は無い、という声も多数でした。相場を調べた統計ではなく、実務の人たちが口にした例です。この件の請求は399万6000円。ハンコ代の十倍以上です。

そして裁判の中で、私道の持ち主が求めた承諾料は199万8000円でした。なぜ半分になったのかは、判決の要旨には書かれていません。それでも200万円近い金額です。

4. 裁判で争われたこと

裁判では、工事の必要性そのものも争われました。私道の持ち主の言い分は、こうです。建てるのは賃貸用のアパートだ。相手の利益のための建築計画に、私道を掘らせる義務はない。そもそも、わざわざ都市ガスにするために私道を掘る必要はない。工事の車が私道を通るのも停まるのも、別に承諾が要る。

建て替える人の言い分は、シンプルでした。配管が古くて、引き直さないと建て替えができない。掘るのは必要なところだけにして、その都度、埋め戻す。

裁判所は、どちらを取ったのか。

5. 判決。承諾料は0円

裁判所は、私道の持ち主には承諾料があるか無いかに関わらず、掘削工事を承諾する義務があると判断しました。承諾料は、この件では認められませんでした。裁判所が重く見たのは2つです。

  • 1つ目。この工事は、水道とガスを使うために必要か。配管が昭和40年代のもので古さがはっきりしていること、古いガス管の交換と水道管を太くする必要があること。裁判所はこれを認めました。
  • 2つ目。相手の負担は、抑えられているか。掘るのは必要な範囲だけ。その都度、埋め戻す。これが、私道の持ち主にとって最も損害の少ない方法だと認めました。

「建てるのは収益物件だから、あなたがたの利益のための計画でしょう」という主張について、裁判所は、条文の類推適用で承諾する義務を負う以上その主張は採用できない、としました。私道の持ち主は裁判の中でも承諾料199万8000円の支払いを求めましたが、裁判所は、承諾料があるか無いかにかかわらず承諾する義務がある、と答えています。金額を値切ったのではなく、承諾料を条件にはできない、という判断です。

裁判所は、承諾料と損害を分けて考えています。もし工事で私道に損害が出たなら、そのお金は別に考える。そのうえで、道として使われているこの私道に、この工事で損害が出るとは考えにくい、とも書いています。承諾料を払わなくてよいことと、損害が出ないことは、別の話です。工事の車の通行や駐停車については、裁判所は判断していません。この裁判は掘削工事の承諾を求めるもので、車のことは別に検討されるべき事項だ、とされました。妨害してはならない、という求めも認められ、訴訟費用(裁判所に納める手数料など。弁護士費用は含みません)は私道の持ち主の負担とされました。

6. 決め手は、明治の条文

根拠になったのは、民法の中にある、水を流すための決まりです。高い土地の持ち主は、浸水や余った水を流すために、低い土地に水を通してよい。ただし、相手の損害が最も少ない場所と方法で(民法220条)。他人が設けた通水のための工作物を使うこともできる(民法221条1項。同2項には、利益を受ける割合に応じた費用の分担も書かれています)。あわせて、他人の土地や排水設備を使わなければ下水を公共下水道に流せないときは、損害が最も少ない場所と方法で他人の土地に排水設備を置ける、という下水道法11条も引かれました。

民法220条と221条は、明治29年に民法ができたときから、同じ番号で置かれている条文です。裁判所は、水道もガスも現代の生活に必要不可欠なものだとして、この古い条文の考え方を今の暮らしに当てはめました。給排水管やガス管の設置に必要な範囲で掘削を承諾する義務がある、という結論は、ここから出ています。

7. 今は、法律に書いてある

この判決は2019年のものです。そのあと、法律そのものが変わりました。2023年4月1日から、民法に213条の2という条文が入っています。他人の土地に設備を置くか、他人の設備を使わなければ、電気・ガス・水道の供給を受けられないときは、必要な範囲で、他人の土地に設備を置き、他人の設備を使うことができる。判例で認められていた工事の権利が、条文ではっきり書かれた形です。

ただし、黙って使ってよいわけではありません。主な決まりが3つあります。

  • 相手の損害が最も少ない場所と方法を選ぶ(213条の2第2項)。
  • 目的・場所・方法を、あらかじめ土地の持ち主と、いま使っている人に知らせる(同3項)。設備を置く工事のために相手の土地に立ち入るときは、隣地の使用を定めた209条の決まり(日時・場所・方法の通知、損害への償金など)が準用されます(同4項)。
  • 土地に損害が出たら、その分を償う(同5項)。他人の設備を使い始めるために生じた損害も同じで(同6項)、その設備の費用は、受ける利益に応じて分け合います(同7項)。

権利はある。でも、事前に知らせる。これが今のルールです。213条の2の条件に当てはまる場合、法律が求めるのは相手の承諾ではなく、事前の通知です。ただし正直に言っておきます。知らせれば勝手に掘ってよい、という話ではありません。判決を検討した委員会では、これは「これまで承諾で進めていた手続きが通知に置き換わった」という意味ではなく、使う権限があることを法律で確かめたうえで、黙って使うと支障が出るから事前に知らせて相手の損害を減らすためのものだ、と整理されています。実際の工事では、私道の持ち主と周りの人の協力が要ります。判決を検討した委員会でも、改正のあとも当事者が合意すれば承諾料が発生するのではないか、という意見が出ていました。法律で工事の権利が認められる場合、承諾料を、その権利を使う条件にはできない。でも、話し合いで払うことはある。ここは、分けて持っておいてください。

この裁判は工事をする側が勝ちましたが、別の土地、別の工事でも同じ結論になるとは限りません。どこまでが必要な範囲か。相手の負担を抑えているか。土地ができた経緯はどうか。裁判所が見るのは、そこです。分割によって袋地になった土地では、配管を通す権利は分割で残った側の土地に対してしか認められない(民法213条の類推適用)とした裁判例(東京高裁 令和4年12月15日)や、接道の条件を満たさず建物を建てられない土地では配管を敷く必要性が認められなかった裁判例(東京地裁 平成29年2月9日)もあります。

8. 勝てるなら、大丈夫では?

ここまでは、法律で認められている工事をする権利の話です。ここからは、売る話です。私たちは売主側の仲介として、売りたい人だけのお手伝いをして、自分では買いません。その立場でこの判決を読んで、いちばん気になるのは、買い手の反応です。

先ほどの委員会の記録に、不動産会社の声が残っていました。私道の承諾をめぐる揉めごとは多い。だから契約の前に、売主に承諾書を取ってもらう。そういう対応をしている会社が多かった、と書かれています。国土交通省の担当者からも、こういう問題を抱えた不動産を仲介するのは実態として難しいのではないか、という意見が出ています。

整理すると、こうなります。権利はあります。裁判をすれば、この事例のように認められることもある。でも、買い手は、工事のたびに話し合いがこじれる土地を、そのままでは買いにくい。承諾書の取得が契約の条件になることがあり、値段や、買うかどうかの判断にも響きうる。

しかも、求められるのは一枚ではありません。私道は、一つの土地とは限らない。何人かで分けて持っていることも、細長い土地がいくつも並んでいることもあります。売買の場面では、公道に出るまでの私道について、通行と掘削の承諾書を求められることが多い。ひとりでも承諾が取れない持ち主がいると、売買の話がそこで止まることがあります。

判決は、承諾料を払わなくても工事を認めました。でも、建物を買う人は、判決が出るまで待つとは限りません。工事が認められる権利があることと、すぐに売れることは、別の話です。

9. 売る前に、3つ確かめる

ここからは、売主側の仲介としての提案です。実家の前が私道なら、売る前に3つ確かめてください。

  • 1つ目。配管が、いつのものか。建った当時の配管なら、材質や状態、買い手の建てる計画によって、引き直しが要ることがあります。建て替える買い手は、そこを見ています。
  • 2つ目。私道の持ち主は誰か。そして、話し合いの窓口は誰か。まず登記で、名義人と、何人で分けて持っているかを確かめます。相続の登記が済んでいないなど、登記の名義といまの持ち主が違うこともあるので、そこは追加で確かめます。窓口を名乗る人がいたら、本当に持ち主から任されているのか、委任状などで確かめる。この裁判でも、管理を任されたと名乗った会社から、代理であることの証明は出てきませんでした。
  • 3つ目。手元に、承諾書があるか。あるなら、誰宛てか、譲り受けた人にも効く文言か、掘削と通行の両方が書いてあるか、公道に出るまでの分がそろっているかを見てください。前の持ち主宛ての承諾書は、その文言のままでは譲り受けた人の通行や掘削まで承諾した内容になっていない、と述べた裁判例もあります(東京地裁 平成30年12月20日)。無いなら、売る前に取れるか、持ち主に当たってみる。

法律で工事の権利が認められる場合、承諾料はその条件にはできない。でも、承諾書には値打ちがある。まずは、お手元の書類を探すところからです。承諾が取れないときや、金額を求められたときは、早めに弁護士にご相談ください。

10. この判決を「勝てる」と読まないでください

この記事は、一つの裁判例の紹介です。399万6000円という数字が強いので、「私道の承諾料は払わなくてよい」とだけ覚えて帰りたくなりますが、この裁判で重く見られたのは、その工事が必要かと、相手の負担を最小に抑えているか、でした。別の土地では、土地ができた経緯など、ほかの事情も含めて検討することになります。

そして売る側から見ると、承諾書の値打ちは判決のあとも消えていません。裁判で勝つ権利より、契約の前に取れる一枚の承諾書のほうが、売却の場面では先に効きます。私道の持ち主との関係を壊さずに承諾書を整えることは、売る前から進めておける準備です。

ご自身の家の相場の目安を知りたいときは、おうち健診をお使いください。住所を入れると、近所の実際の成約から出した坪単価の目安が出ます。土地の広さも入れれば、金額の幅まで出ます。私道や承諾書の事情は、この目安には織り込まれていません。お名前も電話番号も要りません。私道のことでお困りなら、ご相談からお声がけください。登記と承諾書の見方から、一緒に確かめます。

動画でも説明しています

売主側の仲介 株式会社ユーエスハウジング

よくあるご質問

私道の掘削の承諾料は、払わなくてよいのですか?

この記事で取り上げた東京地裁の判決では、私道の持ち主に「承諾料の有無に関わらず承諾する義務がある」として、承諾料は認められませんでした。ただしそれは、配管が昭和40年代のもので引き直しが必要と認められ、掘るのは必要な範囲だけで都度埋め戻すという、持ち主の損害が最も少ない方法だったからです。別の土地・別の工事で同じ結論になるとは限りません。また、いわゆるハンコ代として10万〜30万円ほどを払う例があることも、判決を検討した委員会で紹介されています。払う義務があるかと、話し合いで払うかは別の話です。

民法213条の2があれば、承諾なしで掘ってよいのですか?

2023年4月1日から、他人の土地に設備を置かなければ電気・ガス・水道を引けないときは、必要な範囲で他人の土地に設備を置ける、と民法213条の2に書かれました。あわせて、損害が最も少ない場所と方法を選ぶこと、目的・場所・方法をあらかじめ持ち主と使っている人に知らせること、損害が出たら償うことが定められています。条件に当てはまる場合、法律が求めるのは相手の承諾ではなく事前の通知です。ただし、これまで承諾で進めていた手続きが通知に置き換わったという意味ではなく、知らせれば勝手に掘ってよいという話でもありません。実際の工事では持ち主と周りの人の協力が要り、判決を検討した委員会でも、改正のあとも当事者が合意すれば承諾料が発生するのではないかという意見が出ています。

承諾書は、隣の1筆の分だけあれば足りますか?

売買の場面では、公道に出るまでの私道について、通行と掘削の承諾書を求められることが多いです。私道は一つの土地とは限らず、何人かで分けて持っていることも、細長い土地がいくつも並んでいることもあります。ひとりでも承諾が取れない持ち主がいると、売買の話がそこで止まることがあります。手元の承諾書が誰宛てか、掘削と通行の両方が書いてあるか、公道に出るまでの分がそろっているかを確かめてください。

前の持ち主が取った承諾書は、そのまま使えますか?

そのままでは使えないことがあります。東京地裁平成30年12月20日の判決では、前の所有者宛ての私道通行掘削承諾書は、その文言では譲り受けた人の通行・掘削まで承諾した内容になっていないので、買主はそれを根拠に通行・掘削できない、と述べられました。誰宛てかに加えて、対象の範囲、条件、譲り受けた人にも効くかという文言を確かめてください。売る前に、いまの持ち主にも買主にも効く形で取り直せるか、私道の持ち主に当たってみることをおすすめします。取れないときや金額を求められたときは、早めに弁護士にご相談ください。

出典・参考

  • 東京地方裁判所 平成31年3月19日判決(平成30年(ワ)第29677号 土地掘削承諾請求事件)。判決の要旨=一般財団法人 不動産適正取引推進機構 機関誌「RETIO」No.118(2020年夏号)p.130-131「最近の裁判例から⒃ 私道の掘削承諾」/No.126(2022年夏号)p.86-94「不動産取引紛争事例等調査研究委員会(第323回)検討報告」(ハンコ代の実務の声・時系列・国土交通省担当者の意見を含む)。バックナンバーは同機構のサイトで公開されています https://www.retio.or.jp/
  • 東京地方裁判所 平成30年12月20日判決(前の所有者宛ての承諾書と買主)=RETIO No.117 p.120-121
  • 東京高等裁判所 令和4年12月15日判決(分割で袋地になった土地の配管権=民法213条の類推適用。改正後は213条の3に明文化)=RETIO No.132 p.130-131/東京地方裁判所 平成29年2月9日判決(接道義務を満たさない土地の配管敷設)=RETIO No.126 p.93
  • 民法(明治29年法律第89号)第209条・第213条の2・第220条・第221条
    https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(213条の2を新設した令和3年法律第24号の改正規定は2023年4月1日施行)
  • 下水道法(昭和33年法律第79号)第11条
    https://laws.e-gov.go.jp/law/333AC0000000079

この記事は一般的な説明です。取り上げた裁判の再現部分は、要旨と時系列に記録された事実・主張をもとに構成したもので、当事者の氏名・地名は出典にも書かれていません。白ガス管の「目安20年」は判決が認定した文言で、現在のガス事業者の広報では別の年数を目安とすることがあります。承諾料を払う法律上の義務があるかは、土地と工事の事情ごとに判断されます。話し合いで決める金額や、買主が求める書類は、それとは別に確かめる必要があります。個別の判断は、登記・承諾書・現地を確認してからになりますので、実際の売却や工事にあたっては専門家にご相談ください。

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