GUIDE|売却の基礎知識

高く売り出したら、
かえって安く売れた

売り急ぐ理由がなかったので、相場より高く売り出した。よくある判断です。その家は9か月かかって、相場より安い金額で売れました。何が起きていたのかを、買取をしない仲介会社の立場から順に整理します。

2026年8月30日時点の情報です。市場の状況は変わることがあります。

結論:値段はあとから下げられますが、市場に出てからの時間は戻せません。下げる前提で高く出すより、下げなくてよい価格から始めるほうが、結果として高く売れることが多い。これがデータと現場の両方から言えることです。
  • 売れ残りに見え始めるのは、一般に言われる3か月より早く、日々市場を見ている感覚では2か月です。値付けが合っていれば、1か月以内に決まることも珍しくありません。
  • 価格が市場と合っているかの目安は、内見の案内が週2〜3件あるかです。
  • 売り出し直後に増える連絡は、購入希望者ではなく他社からの広告掲載の確認です。これを反響と読み違えないでください。
  • ご自身の相場圏はおうち健診で確認できます。住所を入れるだけで、連絡先は要りません。

1. 6,290万円で出して、4,980万円で売れた

私が不動産の仕事のなかで見てきた、実際にあった売却です。場所や人物が分からないよう、細部は伏せます。

売主の方には、その家とは別に住まいがありました。つまり、売り急ぐ理由がありません。相場は5,200万円ほど。ご希望で、売り出しは6,290万円になりました。相場のおよそ1.2倍です。

「急いでいないのだから、高めに出して待てばいい」。この考え方自体は、間違いとも言い切れません。急いでいないのは事実だからです。ただ、あとで効いてきます。

結果は、9か月後に4,980万円で成約。差し引き1,310万円で、しかも当初の相場観にも届きませんでした。

余談ですが、80や90で終わる値付けをよく見かけると思います。これが効くのは桁の境目をまたぐときです。6,000万円で売りたい物件を5,980万円で出すと、「5,000万円台」で検索した方にも表示されるからです。もっとも、この6,290万円は境目をまたいでいないので、こちらは業界に染みついた癖のほうです。いずれにせよ、金額が市場とずれていれば、見つけてもらえても選ばれることはありません。

2. 売り出し直後の電話は、お客様ではない

売り出しの初日から、電話は鳴りました。それも、かなりの数です。売主の方は手応えを感じます。急がなくても買い手はいる、と。

ですが、この電話の正体は購入希望者ではありません。新しい物件が出ると、他の仲介業者から「お宅の物件を、うちの広告に掲載してよいか」という確認の連絡が集中します。業界の慣行のようなもので、売り出した直後はたいてい電話が鳴ります。

それが一巡すると、ぱたりと止まります。多くの方がここで「反響が落ちた」と受け取りますが、そもそも中身が違います。判断はここから始まります。

3. 価格が合っているかは、案内の数で分かる

価格が市場と合っている物件には、内見の案内が入ります。目安は週に2〜3件。これが現場で使われている物差しです。

この物件はどうだったか。案内は月に2件ほど。しかも案内のあとに業者へ確認すると、返ってくるのは「金額がネックです」「大幅に下がるなら」という声ばかりでした。

4. 売れ残りに見え始めるのは2か月

業界では、売れ残りと呼ばれ始めるのは3か月からと言われています。ただ、毎日市場を見ている側の感覚では、もっと早く2か月です。東京の動きの早いエリアであれば、値付けが合っていれば1か月以内にすっと決まることも珍しくありません。

この物件は、2か月の時点ですでに黄色信号でした。

5. 値段は下げられても、過ぎた時間は戻せない

「値下げすればよいのでは」と思われるかもしれません。売主の方もそう考え、実際に価格は動きました。それでも流れは戻りませんでした。

9か月を見届けて分かるのは、こういうことです。値段はあとからいくらでも下げられますが、市場に出てからの時間は1日も戻せません。そして買い手も業者も、値段と同じくらいこの時間を見ています。

市場に長くいる物件は、中身が同じでも見え方が変わります。買い手は「これだけ売れていないのは、何かあるのでは」と考えます。紹介する側の仲介業者も「ここまで残っているなら、値引きが通るはずだ」と考えます。この二つの先入観は、どちらも物件のせいではありません。時間が作ったものです。

そして人は、一度「下がる物件だ」と見ると、下がる理由ばかり探し始めます。日当たり、間取り、道路づけ。買う理由ではなく、値切る材料を集め始めるのです。業者が値引きできそうだという前提で紹介を始めると、入ってくる話は最初から値引きありきになります。これが、売れ残りの本当の怖さです。

6. データで確かめる

民間調査でも、売却に時間がかかった物件ほど値引きが大きい傾向が出ています。首都圏の中古マンションについて、売り出しから成約までの期間別に、最初の売り出し価格からの値引き率を見ると、2023年は売却期間1か月以内が平均−2.6%だったのに対し、11か月かかった物件は−13.8%でした。2024年に1か月以内で決まった物件のうち44.4%は、値引きゼロで成約しています(東京カンテイ・2025年7月31日公表)。

米国には、より直接的な検証もあります。物件情報サービスが「再掲載による掲載日数のリセット」を禁じた州では、掲載期間が長いと表示された物件の成約価格が、平均でおよそ3.2万ドル下がりました。掲載日数そのものが価格を動かしたことを示しています(Tucker, Zhang & Zhu, 2013)。

ただし、正直に付け加えます。相場が強く上がっている局面では、待つことが効く場合もあります。実際、同じ調査の2024年は、期間が長くなっても値引き率がそれほど開いていません。「待つのは常に悪い」ではないのです。問題は、自分の物件がいま待ってよい状態なのかを、測らずに待つことです。その物差しが、先ほどの週2〜3件になります。

なお、この調査が見ているのは首都圏の中古マンションで、値引き率も相場との差ではなく、最初の売り出し価格との差です。相場より安く売れたかどうかや、戸建てや土地で同じ数字になるかは、この調査からは分かりません。ただ、売り出してからの時間が買い手の見方を変えること自体は、種別を問わず現場で起きています。戸建てや土地は同じものが二つとなく、比べられる相手も少ないぶん、値付けが合っていれば動きは早く、だからこそ動かないときは価格を疑う価値があります。

7. 同じ金額でも、残る記憶が違う

数字に表れない損もあります。同じ4,980万円でも、はじめから5,200万円で出して、そこから少し下げて決まったのなら「相場どおりに売れた」という記憶になります。6,290万円から始めた方にとって、同じ金額は「1,310万円下げさせられた」記憶になります。

売れたあとの気持ちが、まるで違うのです。私がこの仕事で見てきた限り、売却の満足度は金額そのものより「どう売れたか」で決まります。

では、どうすればよかったのか。三つだけです。

  • 売り出しは、相場の圏内から。高めに挑むなら、理由と期限を決めて挑む。ずるずるやらない。
  • 出したら、案内の数を数える。週に2〜3件あるか。
  • 2か月で判断する。3か月を待たない。

ご自身の相場圏が分からないときは、おうち健診をお使いください。住所を入れるだけで、国の実成約データをもとにした参考の価格帯が出ます。連絡先の入力欄はなく、営業のご連絡もいたしません。

動画でも説明しています

売主側の仲介 株式会社ユーエスハウジング

よくあるご質問

高めに出して、売れなければ下げればよいのではないですか?

値段はいつでも下げられますが、市場に出てからの時間は戻せません。長く掲載されている物件は、中身が同じでも「何かあるのでは」「値引きが通るのでは」と見られるようになり、下げたときの反応が鈍くなります。下げる前提で高く出すのではなく、下げなくてよい価格から始めるほうが、結果として高く売れることが多いというのが実務の感覚です。

売り出してから、どのくらいで判断すればよいですか?

一般には3か月が目安とされますが、日々市場を見ている側の感覚では2か月です。値付けが市場と合っていれば、東京の動きの早いエリアでは1か月以内に決まることも珍しくありません。判断の材料は内見の案内の数で、週に2〜3件あるかどうかが一つの目安になります。

売り出し直後は問い合わせが多かったのに、すぐ止まりました。

売り出し直後に増えるのは、購入希望者からの問い合わせではなく、他の仲介業者から「広告に掲載してよいか」という確認の連絡であることがほとんどです。売り出した直後はたいてい連絡が集中し、一巡すると落ち着きます。反響が落ちたと感じる必要はありませんが、その後に内見の案内が入るかどうかが本当の判断材料になります。

相場はどうやって調べればよいですか?

当社のおうち健診で、住所を入力すると国の実成約データをもとにした参考の価格帯が表示されます。連絡先の入力欄はなく、営業のご連絡もいたしません。個別の条件を反映した査定をご希望の場合は、ご相談ください。

出典・参考

  • 東京カンテイ「中古マンションの価格乖離率&売却期間(首都圏)」2025年7月31日公表
    https://www.kantei.ne.jp/wp-content/uploads/123kairi_shuto.pdf
  • Tucker, C., Zhang, J. & Zhu, T. (2013) "Days on Market and Home Sales", RAND Journal of Economics 44(2), 337-360.
  • 不動産情報ライブラリ(国土交通省)の実成約データ / 当社「おうち健診」の算出根拠

この記事は一般的な説明です。個別の判断は物件の状況によって変わります。市場の状況も変化しますので、実際の売り出し価格は最新のデータでご確認ください。

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