きょうだいで相続した実家を
どう売るか
相続した実家は、きょうだいの誰か一人の判断では売れません。全員の合意が要ります。そして、決まらないまま共有で置いておくと、時間が経つほど話は難しくなります。どういう分け方があり、どの順番で進めればもめにくいのかを、実務の側から整理しました。
- 共有は次の相続で相続人が枝分かれし、一人でも反対すれば売れなくなります。
- 先に決めるのは売るかどうかではなく、①誰が窓口として動くか ②全員が同じ資料を見る状態を作ること、の2つです。
- そのうえで、換価分割(売って現金で分ける)・代償分割(一人が引き継ぎ他へ現金を渡す)・現物分割のどれにするかを話し合うと、順番が通ります。
1. 最初に決めるのは「売るかどうか」ではない
いきなり「売る/売らない」から入ると、たいていまとまりません。判断の材料が人によって違うからです。長男は「あの家は3,000万にはなるはずだ」と思い、次女は「古いから二束三文だろう」と思っている。この状態で結論だけ議論しても、平行線になります。
先に片付けたほうがよいのは、次の2つです。
- 誰が窓口として動くか。全員が別々に不動産会社に連絡すると、話が食い違って不信が生まれます。一人を窓口に決めて、他のきょうだいには同じ内容が回るようにする。決定権を渡すという意味ではなく、連絡の口を一本にするだけです。
- 全員が同じ資料を見る状態を作る。相場の目安、建物の状態、名義がどうなっているか、境界がはっきりしているか。同じ紙を見ていれば、そもそも議論にならない争点が減ります。
当社が「ご兄弟に、同じ紙を渡します」と申し上げているのはこの理由です。一人が聞いた話を口頭で伝え直すと、悪気がなくても必ず食い違います。
2. 分け方は3つ+共有のまま
相続した不動産の分け方には、大きく3つあります。
| 分け方 | 中身 | 向いている場合 |
|---|---|---|
| 換価分割 | 売って、代金を持分に応じて分ける | 誰も住まない・全員が現金で受け取りたい |
| 代償分割 | 一人が家を引き継ぎ、他のきょうだいに相当額の現金を渡す | 誰かが住み続けたい・引き継ぐ人に資金がある |
| 現物分割 | 土地を分筆するなど、財産そのものを分ける | 土地が広く、分けても使える形になる |
都心の実家では、現物分割は現実的でないことが多いです。分けた結果それぞれが接道の条件を満たさなくなったり、狭すぎて使えなくなったりします。品川区のように敷地がそれほど広くない地域では、実際には換価分割か代償分割のどちらかになりがちです。
そして4つ目の「共有のまま持つ」。遺産分割で「共有で取得する」と決める形(共有分割)もありますが、実際に多いのは分け方を決めていない状態のほうです。
3. 共有のまま置くと、何が起きるか
共有そのものが違法なわけではありませんし、当面は誰も困りません。困るのは数年後です。
- 一人でも反対すると売れません。不動産全体を売るには共有者全員の同意が必要です。3人のうち2人が売りたくても、1人が首を縦に振らなければ止まります。
- 次の相続で、相続人が枝分かれします。きょうだいの誰かが亡くなると、その持分はその方の配偶者やお子さんへ渡ります。3人だった共有者が、10年後には7人、そのうち何人かは面識がない、ということが実際に起きます。人数が増えるほど全員の合意は難しくなります。
- 費用と管理の負担が、誰か一人に偏ります。固定資産税、火災保険、草刈り、郵便物の確認。近くに住んでいる人が事実上引き受けることになり、それが何年も続くと不満が溜まります。
- 持分だけを外部に売られることがあります。自分の持分だけなら、他の共有者の同意なく第三者へ譲渡できます。見ず知らずの相手が共有者になると、話は一気に難しくなります。
「いま決めたくない」というお気持ちは自然なものです。ただ、決めないという選択には時間とともに増える代償があります。そこだけは、きょうだいで共有しておいたほうがよいと思います。
話し合いの前に、ご兄弟が同じ資料を見ておくと争点が減ります。おうち健診の所見書は、参考相場と整理すべき論点が1枚にまとまります。連絡先の入力欄がないので、配っても営業の電話はかかりません。
家族会議用の1枚をつくる(無料)4. 売って分ける(換価分割)の実務
売って現金で分けると決めた場合、実務は次のように進みます。
- 遺産分割協議書に「換価分割で行う」と書く。ここに明記しておくと、後の手続きが通りやすくなります。誰の名義で登記して売るのか、代金をどの割合で分けるのかも書いておきます。
- 相続登記をする。共有名義のまま登記して全員が売主になる方法と、代表者一人の名義にして売る方法があります。後者は手続きが軽くなる一方、書き方によっては代表者から他のきょうだいへの贈与とみなされる余地があるため、協議書の書き方が重要です。ここは司法書士・税理士に確認してください。
- 媒介契約を結んで売り出す。共有名義なら、媒介契約も売買契約も原則として共有者全員が当事者になります。遠方のきょうだいがいる場合は委任状で対応することもできます。
- 決済。共有者全員、または代理人が出席します。売買代金は、協議で決めた割合で分けます。
実務上つまずきやすいのは、印鑑証明書と実印です。人数分そろえる必要があり、遠方のきょうだいがいると日数がかかります。契約の日程が見えた段階で、早めに手配をお願いしておくと当日慌てません。
5. 意見が割れたとき
話し合いでまとまらない場合、家庭裁判所の遺産分割調停という道があります。調停委員が間に入り、当事者だけでは進まない話を整理していく手続きです。それでもまとまらなければ審判に移ります。
遺産分割で共有と決めた後に「持分を解消したい」という段階になった場合は、共有物分割請求という別の手続きになります(法定相続分で登記しただけで遺産分割が済んでいなければ、遺産分割の手続きのほうです。民法258条の2)。2023年4月からは、所在が分からない共有者がいる場合に裁判所の関与でその持分を取得・譲渡できる制度も設けられました(相続で未分割の持分については、相続開始から10年を経過していることが必要です。民法262条の2)。
ここから先は法律の領域です。当社は媒介(仲介)の立場なので、争いのある場面には踏み込みません。話がこじれてきたと感じたら、弁護士へお取次ぎします。もめてから不動産会社に相談するより、もめる前に材料をそろえておくほうが、結果的に費用も時間も少なくて済みます。
6. お金の分け方と税金
共有で売った場合、譲渡所得はそれぞれの持分に応じて各自のものになります。まとめて誰かが申告するのではなく、申告が必要な場合は相続人がそれぞれ自分で確定申告します(空き家の3,000万円特別控除を使うときは、税額がゼロでも申告が要ります)。
要件を満たせば、相続した空き家の3,000万円特別控除も相続人ごとに使えます。ただし、その家と敷地を相続で取得した相続人が3人以上の場合は、1人あたりの控除の上限が2,000万円になります(2024年1月1日以後の売却)。税金の記事と控除の記事もあわせてご覧ください。
代償分割の場合、代償金を受け取った側に譲渡所得は発生しませんが、家を引き継いだ側が将来売るときの取得費の考え方に関わってきます。どの形が有利かは金額と人数で変わるので、分け方を決める前に税理士に一度当ててみることをおすすめします。決めた後のやり直しは、相続人全員の合意があっても贈与税などの課税が生じることがあり、実質的には選び直せません。
よくあるご質問
Q. きょうだいの一人が売却に反対しています。多数決で決められませんか?
A. 決められません。不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要で、持分の多い少ないにかかわらず一人でも反対すれば売れません。まずは反対の理由を聞いてみてください。金額への不安なのか、実家がなくなること自体への抵抗なのかで、打つ手が変わります。相場の資料を全員で共有するだけで前に進むこともあります。
Q. 遠方に住んでいるきょうだいがいます。全員が契約や決済に来る必要がありますか?
A. 委任状で代理の方に出席してもらう方法があります。ただし実印と印鑑証明書は本人のものが必要で、書類のやり取りに日数がかかります。日程が見えた段階で早めに手配をお願いしておくと当日慌てません。
Q. 代表者一人の名義に相続登記してから売ると、簡単だと聞きました。
A. 手続きは軽くなりますが、遺産分割協議書に「換価分割のために便宜上この名義にした」という趣旨を明記していないと、代表者から他の相続人への贈与とみなされる余地があります。書き方が肝心なところなので、必ず司法書士・税理士に確認してから登記してください。
Q. 名義が祖父のままで、父も亡くなっています。それでも売れますか?
A. 現在の相続人全員を戸籍で確定し、遺産分割協議をまとめたうえで相続登記をすれば売却できます。相続が二重三重に重なっていると相続人が増えている分、戸籍集めと合意形成に時間がかかります。放置するほど人数が増えるので、着手は早いほうが楽です。
出典・参考
- 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 裁判所「遺産分割調停」
- 民法(明治29年法律第89号)第249条以下(共有)・第906条以下(遺産の分割)|e-Gov法令検索
- 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
宅地建物取引士が執筆し、株式会社ユーエスハウジングが監修しています。祖父が西品川で開いた質屋「越後屋」から三代、この街で商売を続けてきました。品川区西品川の事務所を中心に、大崎・戸越・大井・荏原など歩いて行ける範囲を大事にしながら、相続・空き家のご売却を媒介(仲介)でお手伝いしています。当社は買い取る会社ではなく、売る側に立つ仲介の会社です。
おうち健診の所見書は、参考相場と、売り出す前に整理しておきたい論点が1枚にまとまります。連絡先の入力欄がないので、ご家族に配っていただいても営業の電話がかかることはありません。
この件を相談する(無料) おうち健診(連絡先不要)※本記事は2026年7月31日時点の一般的な情報のご提供を目的としたものです。遺産分割の進め方、登記の方法、税務上の取り扱いは個別の事情により異なり、本記事の内容が成約や特定の結論を保証するものではありません。具体的なご判断にあたっては、弁護士・司法書士・税理士等の専門家にご確認ください。