思い出のある家だから、売るのは踏ん切りがつかない。かといって空けておくのももったいないし、貸せば家賃も入る——。相続した実家の「三択」で足が止まるのは、ごく自然なことです。この記事は「売りましょう」という結論へ誘導するためのものではありません。三つの道それぞれで何が起きるかを、同じ物差しで並べます。
三択で迷ったら、感情の前に、次の2つを紙に書いてみてください。
物差し①「戻る予定は、現実的にあるか」。「いつか誰かが住むかもしれない」ではなく、誰が・何年後に・どういう事情で戻るのか。具体的に書けるなら、その家は手放すべきではありません。書けないなら、「戻るかもしれない」は判断の材料から外して構いません。この一枚で、三択が二択になることが少なくありません。
物差し②「税の特例の期限は、いつか」。実家の売却では、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例が使える場合があり、税額が数百万円単位で変わることがあります。そしてこの特例には期限があります。期限を知らずに置いておくと、選択肢が静かに減っていきます。次章から、この期限が三択それぞれでどう動くかを見ていきます。
家賃が入る、家は人が住むほうが傷まない——貸すことの利点は実際にあります。そのうえで、貸す前に知っておくべきことが3つあります。
相続した空き家を売るときの3,000万円特別控除(租税特別措置法35条3項)は、「相続の時から譲渡の時まで、事業の用・貸付けの用・居住の用に供されていたことがないこと」が要件です(国税庁タックスアンサーNo.3306)。つまり、一度でも貸すと、その後に売る場合はこの控除が使えません。「数年貸してから売る」を考えている方は、家賃収入の合計と、控除が消えることによる税負担の増加を、先に並べて計算してください。この計算をせずに貸してしまうのが、いちばん惜しい形です。
貸した瞬間から、あなたは事業者としての貸主です。雨漏り・給湯器の故障・水回りの不具合など、使用に必要な修繕は貸主の義務です(民法606条)。築年数の経った家では、貸す前の工事(水回り・給湯・電気設備など)に相応の費用がかかることが多く、貸し出し後も設備が壊れるたびに対応が発生します。家賃から、これらの費用と固定資産税・管理料を引いた残りが、実際の手取りです。
普通借家契約では、借主の保護が厚く、貸主側から更新を断って明け渡してもらうには正当事由(借地借家法28条)が必要です。「そろそろ売りたいので」だけでは通らないのが原則です。将来売る・戻る可能性が少しでもあるなら、更新がなく期間満了で終了する定期借家契約(借地借家法38条。書面または電磁的記録による契約と、契約前の説明が必要です)を選ぶのが定石ですが、同条件の普通借家より賃料は低くなる傾向があります。
「今は決めない」も立派な選択肢です。ただし、置いておく間も3つの時計が動いていることは知っておいてください。
置いておくと決めるなら、「◯年の年末までに再判断する」と期限だけ決めて、カレンダーに書いておく。これだけで、「気づいたら特例が切れていた」は防げます。
売る場合の流れ・費用・税金は、それぞれ別の記事で詳しく書いています(売却の流れ・税金)。三択の比較という観点では、次の3点だけ押さえておけば足ります。
| 貸す | 売る | 置いておく | |
|---|---|---|---|
| お金の出入り | 家賃収入。ただし貸す前に工事費がかかり、修繕・管理・税の支出が続く | 売却代金が入り、以後の支出は止まる | 収入なし。維持費と税の支出が続く |
| 相続空き家の3,000万円控除 | 使えなくなる(貸した時点で要件を外れる) | 要件と期限を満たせば使える | 期限(相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日・2027年末)が近づいていく |
| 戻れるか | 普通借家は戻りにくい(正当事由が必要)。定期借家なら期間満了で戻る | 戻れない | いつでも戻れる |
| 手間 | 貸主の義務が続く(修繕・設備対応・借主対応) | 売却活動の数か月に集中 | 換気・通水・草木・郵便の管理が続く |
| 向いている場合 | 戻る予定はないが手放したくない。工事費を掛けても収支が合う立地・状態 | 戻る予定がなく、特例の期限内に整理したい | 戻る予定が具体的にある。または相続・家族の話し合いが済んでいない |
三択のどれが得かは、実家の相場と状態で変わります。住所を入れるだけで、判断の土台になる参考相場が出ます。
おうち健診で現在地を知る(連絡先不要)「まだ決めていないのに不動産屋に相談したら、売らされそうで嫌だ」——そう感じる方は多いと思います。当社は買取をしない媒介(仲介)の会社で、「今は売らないほうがよい」と申し上げる場面も普通にあります。貸す方向に決まった場合の賃貸管理も当社でお受けできますから、売る・貸すのどちらかへ誘導する理由もありません。
迷っている段階でやっておいて損がないのは、次の2つだけです。
この2つが手元にあれば、ご家族の話し合いは「なんとなく」から「いつまでに・いくらの話」に変わります。決めるのはそれからで十分です。
A. できますが、税額が大きく変わる可能性があります。相続した空き家の3,000万円特別控除は「相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住の用に供されていないこと」が要件なので、一度でも貸すと使えなくなります。家賃収入の数年分と、控除が消えることによる税負担の増加を並べて計算してから決めてください。当社でも試算のお手伝いをしています。
A. 2つの時計が動いています。1つは税金の時計で、親御さんがご自宅を売る場合のマイホームの特例(3,000万円特別控除)は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却が要件です。もう1つは判断能力の時計で、認知症が進むと売却には成年後見の手続きが必要になり、時間も費用もかかるようになります。急いで売る必要はありませんが、「いつまでに決めるか」だけは決めておく価値があります。
A. 将来売る・戻る可能性が少しでもあるなら、更新がなく期間満了で終了する定期借家が向いています。普通借家は借主の保護が厚く、貸主側から更新を断るには正当事由が必要で、簡単には戻ってきません。ただし定期借家は同条件の普通借家より賃料が低くなる傾向があり、契約には書面(または電磁的記録)と事前の説明が必要です。貸す方向に決まった場合の契約の形や賃貸管理も、当社でご相談いただけます。
A. 3つあります。①相続登記(2024年4月から義務化されており、正当な理由なく怠ると過料の対象です)②火災保険の継続(空き家は契約条件が変わることがあります)③月1回程度の換気・通水・郵便物の整理。加えて、管理が行き届かず「管理不全空家」に勧告されると固定資産税の住宅用地特例が外れるリスクがあることは知っておいてください。
宅地建物取引士(不動産の実務17年)が執筆し、株式会社ユーエスハウジングが監修しています。品川区西品川の事務所を中心に、相続・空き家のご売却を媒介(仲介)でお手伝いしています。「今は売らない」という結論も尊重します。期限と相場を確かめたうえで置いておくと決める——それもひとつの整理です。当社は買い取って転売する会社ではないため、「安いうちに早く」と急がせる仕組み上の理由がありません。
おうち健診は住所を入れるだけで、国の実成約データによる参考相場と所見が出ます。連絡先の入力欄がないので、迷っている段階で使っても営業の電話はかかりません。
この件を相談する(無料) おうち健診(連絡先不要)※本記事は2026年8月2日時点の一般的な情報のご提供を目的としたものです。税の特例の適用可否は要件が細かく、個別の事情によって結論が変わります。実際の判断は、国税庁の最新情報のご確認と、税理士等の専門家へのご相談をお願いします。賃貸借契約の効力・終了に関する事項は、契約内容と個別の事情によって異なります。